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Kald mig bare Aksel サラーム・アクセル

デンマーク映画 (2002)

この映画は、2004年3月に埼玉県川口市で開催された第1回 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で、コンペティション部門ではなく招待作品として『アクセルの挑戦』の仮題で上映された。ただ、劇場公開もDVD発売されていないので、未公開扱いとする。デンマークでの公開時の題名は、『Kald mig bare Aksel』。英語に訳すと 「Call me just Aksel」、すなわち 「アクセルと呼んで」となるが、映画を観ていると、アクセルが 「My name's not Aksel. It's Achmed(僕の名はアクセルじゃない、アクメッドだ)と言う部分があるので、どちらかと言うと、題名は『Kald mig bare Achmed(アクメッドと呼んで)』の方が相応しいのではないかと思う。今回の仮題『サラーム、アクセル』は、ドイツから取り寄せたDVDのタイトル。サラームは、ムスリム(イスラム教徒)の礼拝を意味する言葉。ムスリムに傾倒したアクセルが、何度もサラームをするので、この方が内容とぴったり合っていると思い、こちらを選択した。これまで、このサイトで紹介した移民の映画は唯一、スウェーデン映画 『Play(プレイ/絡まれて…)』(2011)で、そこではアフリカ系移民の少年達に襲われる スウェーデンの少年達の恐怖が描かれていた。しかし、この映画では、主人公のアクセルが、ムスリムの金のネックレスに興味を持ったことが発端となり、その後、歌のコンテストへの出場に絡み、ムスリムの導師に助けてもらおうと、イスラム教に改宗しようする。非常に珍しい設定だ。ただ、デンマークにおけるムスリムを100%好意的に描いているかと問われると、デンマークの標準的な家庭とは違うムスリムの価値判断が強調され、アクセルと歌でグループを作る他の2人の少女のうち、デンマーク人のアニカはごく普通の優しい少女であるのに対し、ムスリムの少女ファティマは、母の影響で、独断的で身勝手、優しさに欠け、見ていて反感を覚えてしまう。アクセルのムスリム熱も、最後には消える。そういう意味では、100%好意的とは言えない。この映画は2002年の公開だが、それから20年近く経った2021年3月4日付けの https://www.dw.com/ の記事は、次の言葉で締めくくられている。「この地域に住んでいる子供たちと話すと、彼らは、デンマークで生まれ、デンマークのパスポートを持ち、デンマーク語を話し、デンマークの学校に通っているので、自分たちはデンマーク人だと信じている。しかし、デンマークの人々は必ず彼らにこう言う。『君たちは ムスリムだから デンマーク人じゃない』」。なかなか意味深な発言だ。その直後の2021年4月15日付けの https://www.thenewfederalist.eu/ の記事のテーマは、Islamophobia(イスラム恐怖症)だ。それを読むと、現在のデンマークで、ムスリムが “表面上ではなく、心の奥で真に” デンマーク人から受け入れられているとは、とても思えない。因みに、2002年のデンマークの信仰別人口は、キリスト教徒の452万7230人に対し、ムスリムは19万8387人。年ごとのグラフで示すと、下のような図となる。2002年にはムスリムは全人口の約3%、現在は8%に達している。日本に当てはめると、総人口1億2545万人の8%といえば約1000万人となる。現在 日本にいるムスリムは5万人以下なので何の問題もないが、1000万人に達すれば何が起きるのか想像もつかない。

アクセルは、母子家庭に住む10歳の少年。アクセルには高校生の姉がいて、別居している父は、酔っ払った敗残者なので なかなか会うことができない。そんなアクセルが、モールに行った時、ムスリムの店に並んでいる金のネックレスに魅せられる。アクセルは、姉が、恋人のムスリム青年アリからプレゼントされたネックレスを勝手に拝借して、付けてみる。カッコいいと自分では思う。姉は、それを見つけて奪い返すが、その夜、母が夜勤の間、アリと一緒に過ごすことを内緒にするという条件で、アクセルにネックレスを預ける。一方、アクセルの小学校では、クラブで歌唱大会を開催することになり、アクセルは、同じアパートに住むアニカと、隣のアパートに住むムスリムのファティマの2人と組むよう指示される。何を歌うか? そのヒントは、ファティマの兄でもあるアリが、アクセルの姉にプレゼントした詩にあった。姉が出かけた夜、アクセルは うっかり鍵を持たずにアパートを出て姉の後を追いかけ、中に入れなくなる。そこで、ファティマの父が経営するファーストフード店に行き、疲れて寝てしまう。すると、朝、ファティマのアパートで目が覚める。そこでは、厳しい母が、ファティマに、歌唱大会で歌うような “はしたない真似” に断固反対する。そして、3つ目の話題は、アクセルとアニカのアパートに住み着いた野良犬。お腹を空かせた犬を可愛そうに思ったアニカの提案で、アクセルが、モールで、アリの詩を歌ってチップを稼ぐことに。そのお金で、ドッグフードは変えたが、ファティマも一緒に歌っているところを兄のアリに見られてしまい、その “破廉恥な行為” はすぐに両親に伝わる。お陰でファティマは、歌唱大会への出場はもちろん、外出禁止を言い渡される。アクセルは、その “解除” をムスリムの導師イマムから、ファティマの両親に働きかけてもらおうと、自らムスリムになろうとする。そして、コーランの一部を覚え、モスクにも礼拝に行くが、イマムからは、ファティマの両親の問題だと、関与を否定されてがっかり。野良犬の方は、ある激しい雷雨の夜、放置しておくのを可愛そうに思ったアニカが、自分の部屋に連れ込んだことで、動物アレルギーの母が呼吸困難になり、結局、アクセルが引き取る。そして、歌唱大会の当日、アクセルは、アリに礼拝の仕方を教えてもらいに来たという口実でファティマのアパートに入ると、こっそりファティマの部屋に行き、服を取り換えたファティマが、アクセルの振りをしてアパートを抜け出し、歌唱大会に出る。しかし、アパートを抜け出して後を追おうとしたアクセルが見つかってしまい、父とアリに連れられて歌唱大会に連れて行かれる…

タイロル・ロールのアクセル役は、アダム・ギルバート・イェスペルセン(Adam Gilbert Jespersen)。1991年2月2日生まれ。映画の公開は2002年9月。5ヶ月で撮影から公開まで可能だとは思えないので、撮影時は恐らく10歳。これが映画初出演。その翌年には、『Møgunger(ガキンチョ連合)』(2003)に主役で出演(下の写真の左)。この時は、ほとんど顔は変わってないが、表情はこの映画ほど多様ではない。もう1本は、日本でもDVDが発売された『Oskar og Josefine(ジョセフィンと魔法のペンダント)』(2005)。この時は、脇役で、13歳とは思えない育ち振り(下の写真の右)。彼は、そのあと1本映画に出ただけで、映画界を去っている。
  

あらすじ

アクセルが、イスラム教徒の移民の経営する店で、豪華な子供服を触っていると、店員から、「それは、ムスリムの子供が、割礼式の時に着る礼服だ」と言われる。続いてアクセルが手に持ったのは、イスラムの女性用の金のネックレス。太いのを手に持ち、次いで、一番細いのを手に持つ(1枚目の写真、矢印)。「これ、いくら?」と訊いてみると、「400だよ」〔この当時の換算率で6000円→金メッキ?〕「そんなお金 ないだろ? 稼げるように なったらな」。アパートに戻ったアクセルは、ベッドで眠っている姉の首からネックレスを抜き取る(2枚目の写真、矢印)。ここで標題が示される。その後、アパートの管理人が、野良犬の糞に憤慨している中を、アクセルがバッグを持って母の車に乗ろうとする。「そこで、何してるの?」。「パパのトコまで、連れてって」〔離婚もしくは別居〕。「行っても無駄よ。昨日は大酒飲んでた」。そこに、姉の彼氏のイスラム移民の青年アリが車でやってくる。「アリ、乗せてくれる?」。「この車は、ムスリム専用だ。お前、ムスリムか? 残念だな。ムスリムとデンマーク人の彼女専用だ」。アパートに戻ったアクセルは、母が見ている前で、父に電話をかける。しかし、誰も電話に出ない。母は、「なぜ電話が 通じないの?」と訊く。「きっと、玄関で僕を待ってるんだ」。「酔っ払って寝てるからよ」(3枚目の写真)。そこで、アクセルは、電話が通じたフリをして、「やあ、パパ。アクセル。今、そっちへ 行くから…」と言いかけると、母が 電話機のスピーカーホン・ボタンを押したので、呼び出し音が聞こえてしまう。アクセルは、あきらめて受話器を置く。アクセルが、自分の部屋で、「遊びに行きたい!」と一人でゴネていると、目が覚めた姉が キッチンにいる母の所にやってきて、「私のネックレス知らない?」と訊く。「昨夜、寝た時にはあったのに、消えちゃった。アリのプレゼントなのに。見たことあるでしょ?」。母:「デンマークじゃ、18になるまで車の運転はできないんだって、言ってやらなくちゃ」。
  
  
  

しばらくして、母がアクセルの部屋に行くと、イスラム教徒のように、床に膝をつき、両手を上げてから(1枚目の写真)床に伏せ、お祈りの真似をしている。母:「何してるの?」。「分からない? 遊べるよう、アラーに お願いしてる」。ムスリムなの? 先月はスーパーマンだったわね」。「ムスリムは、クールなんだ」。「じゃあ、パパに勧めて。ムスリムは禁酒でしょ?」。そう言うと、母は、「クラブに入ると、いろんなことができるわよ」と言って紙を見せる(2枚目の写真)。アクセルは、「こんなトコ、誰も行かないよ」と反対する(3枚目の写真)。母は、「ファティマならいるわ。彼女、ムスリムよ」と言う〔ファティマはアリの妹で、一家は隣のアパートに住んでいる〕。「ムスリムの女の子なんて、クールじゃない」。
  
  
  

そうは言ったものの、父に会いに行けなくなったアクセルは、学校の体育館に行ってみる。そこでは、1人の教師の前に生徒達が集まり、教師が、「最終組は、サラ、トリーヌ、タンネ。いいか?」と言っている。ドアを開けて入ってきたアクセルを見た教師は、「土曜の、歌唱大会に出るかい?」と訊く。「それとも、バスケットボールのネットに座って、陶器の人形になるとか」。「歌唱大会で」(1枚目の写真)。「そうか。じゃあ、第4グループだ。アニカとファティマと一緒だ」。アクセルが2人のそばに座ると、ファティマが、「パパと、遊びに 行ってたんじゃないの?」と訊く(2枚目の写真)。「急に、仕事が入ったんだ」と嘘で誤魔化す。ファティマは、「私たち、女性コーラスです」と教師に言い、アクセルの参加に反対する。教師:「今は、混声コーラスだ」。それを聞いたファティマは、アクセルに 「じゃあ、女装してきてね」と言い、それを聞いたアクセルは、思いきり嫌な顔をして見せる(3枚目の写真)。「大会は、土曜の1時だ。家族を 連れて来ること」。
  
  
  

そのあと、3人だけになると、ファティマは、「それ、どうして持ってるの?」と、ネックレスのことを訊く。「ムスリムだからさ」。「デンマーク人は、ムスリムじゃない」〔海外のどのサイトを見ても、イスラムの男性は、金のネックレスなどの宝飾品は厳禁と書いてあった。この映画では、その原則が最後まで無視されている〕。「それが、違うんだな」。アニカが、「あり得ないわ」と口を挟む。3人は、外階段を降りて帰途に着く。ファティマが、「歌のテーマは “恋” ね」と言い出す。アニカ:「恋したことあるの?」。「ないわ」。ここで、アニカが、「一度あるわ、クリストーファって子と」と言う(1枚目の写真)。それを聞いたアクセルは、「♪クリストーファ、クリストーファ、べったりくっついて離れない」と はやし立て、アニカに嫌われる。3人は、途中で、ファティマの父のファーストフード店の前を通ると、ちょうど父が外にいたので、ファティマは、「クラブ活動で、歌唱大会に出るの」と報告する。「そりゃいい。お前も、有名になるな」(2枚目の写真)。3人はさらにアパートに向かう。アクセルは、ファティマに、「毎日、ピザ?」と訊く〔ファーストフード店のメニューのトップがピザ〕。「まさか」。「じゃあ、“スワマ”?」。「“シャワルマ” のこと?」〔ドネルケバブに対応するアラビア語名称〕。話がそこまで来た時、3人の目の前で、アパートの管理人に捕まった野良犬が、「とっとと失せろ」と放り出される(3枚目の写真、矢印は、アパートの鍵)。アクセルは首にかけた鍵を使ってアパート玄関のドアを開けようとするが、なかなか開かないので、同じアパートに住むアニカがドアホンで母に開けてもらう〔2人は同じアパートで、ファティマはアニカの部屋と向き合った隣の棟〕
  
  
  

アクセルが、鍵でドアを開けて中に入ると、場面は アニカの部屋に変わり、母親が 「靴底は拭った?」と訊き、「汚れてないわ」と否定しても、電気掃除機で靴の裏を吸い取る〔こんなに神経質なのは、母親に重度の犬アレルギーがあるため〕。一方のファティマのアパート。アニカのアパートから、狭いベランダに11人も出ているのが見え、アニカの父親は、「新記録だ」と驚く。そして、場面は、そのファティマのアパートの居間に。ファティマの母親は、父親と違い、旧弊な考えの持ち主で、居間には、暇そうな男の子もかなりいるのに、ノートに歌詞を書き始めたファティマに、地下室の洗濯場に行くよう、執拗に命じる。兄のアリも、「ファティマ、洗濯場へ行けよ」と注意し、「兄さん、行けば?」の言葉〔生意気〕には、パソコンに向かって 「作文中だ」。「ラブレターじゃないの?」〔かなり生意気〕。母:「ファティマ!」。ファティマは、兄が書いているのをチラと見る(1枚目の写真)。一方、アクセルは、上半身裸になると、邪魔になる鍵を首から外し、金のネックレスだけを付けた状態で力コブを作って、悦に入る(2枚目の写真、矢印)。すると、急にドアが開き、姉が入って来て、ネックレスに気付き、「この泥棒! 返しなさい!」と文句を言う。「勝手に入るなよ!」。「こら、早く返せ!」。「僕が、見つけたんだ」(3枚目の写真)。「首に、かけてたのよ! 返しなさい!」と取ろうとするが、そこに母が入って来て、2人とも鏡の前から追い出される。結局、母の一言で、アクセルはネックレスを返却させられる。
  
  
  

そのあと、居間にいった2人は、チャンネルの奪い合いでケンカする。そこに、母がやって来て、「朝、会いましょ」と言って仕事に出かける。母が出て行くと、入れ替わりに、窓の外で車やバイクの音が聞こえる。姉が期待して窓の外を見ると、そこにはアリやその仲間達がいた。姉の態度は急に変わり、一度付けたネックレスをまた外すと、「これ 貸したげたら、外泊 内緒にしてくれる?」と言い出す(1枚目の写真、矢印はネックレス)。そして、10クローネのコイン〔150円〕も。アクセルが、嬉しそうに 「歌唱大会に付けられるぞ」と独り言を言うと、それを耳にした姉は、すぐに「ダメよ。今夜だけ」と否定する。「じゃあ、バラす」。姉は 「言う通りにしてれば、いいことがあるから」「外出するなら、鍵を忘れずに」と言って出て行く。アクセルは、姉が消えると、すぐに窓から外を見て、アリの所に行ったのだと分かる。外は雨。姉に会ったアリは、「渡すものがある」と言って、パソコンを前に考えた詩の紙を渡す。そこに、アクセルが出て来て、イスラム移民のグループの中にいる姉(2枚目の写真、矢印)に接近。アリは、アケセルが首にかけているネックレスを見て 「いいネックレスだな」と言う。「僕、ムスリムだもん」。姉は 「貸してなんか、ないわ」と、アリに弁解し、アクセルは 「貸しただろ」と、本当のことを言うが、アリの前で面目を潰された姉は 「外しなさい、嘘つき」と 必死に疑いを解こうとする。「やだよ」。すると、アリは 「一緒に来たいのなら、アラビア語で頼め」と言い、アラビア語で、「僕は、トンマです」と言わせる。「ぼく トン」(3枚目の写真)。アリ:「僕は、トンマです」。「ぼく トンマ」。それを見ていた同僚は笑う。「ちゃんと言えるようになったら、乗せてやる。いいな?」。姉は、アリの車に乗ってどこかに行ってしまう。
  
  
  

アパートに戻ろうとしたアクセルは、首にかけていた鍵がないことに気付く〔さっき、洗面の前で、邪魔になるので外した〕。「ミア! ミア! 鍵、忘れちゃった!」と、姉に向かって叫ぶが、後の祭り(1枚目に写真)。雨の中、アクセルは、ファティマとアリの父の店まで歩いて行き、「電話貸してよ。家の鍵、忘れちゃった」と頼む。1回目は通じない〔どこに掛けたのだろう? アパートの中には誰もいない。仕事先の母? それとも、姉の携帯?〕。そこで、2回目は父に掛ける。今度は、恐らく酔っ払って寝ていて通じない。しかし、アクセルは、「きっと、外出中なんだ」と庇う。そして、店を出て行こうとすると、気さくな父親は、「どこへ行く? 座れよ」と言い、店のファーストフードとオレンジジュースをプレゼント。アクセルは、父親の前のジュースを見て、「ムスリムでも、飲んでいいの?」と訊く。「飲まないと死ぬからな。アルコールはダメだが」。「僕も飲んでいい?」。「もちろん。聞くまでもないだろ?」。「僕、ムスリムになったから」。「ムスリムになったのか?」。「うん」。「どうして?」。「カッコいいから」(2枚目の写真)。「カッコいい? じゃあ、車で暴走したり、強盗でもするのかな?」。「そう。神様を信じるのも、やめた」。「ムスリムが神を信じないって? それは、初耳だ」。「アラーを信じてる」。「アラーも同じ神だ」。「違うと思ってた」。「アラビア語も、学ばないとな」。これを聞いたアクセルは、「僕は、トンマです」と 自慢げに言う。「誰に、教わった?」。「アリ」(3枚目の写真)。「意味、知ってるかい? 『僕は、トンマです』 って意味だ」。アクセルの笑顔が消える。
  
  
  

翌朝、アクセルは、ファティマのアパートの長椅子に布団を掛けられた状態で目が覚める(1枚目の写真)。すぐ近くでは、ファティマの父と兄が絨毯に膝をついてお祈りし、弟がアクセルを見て、「お早う」と言う(2枚目の写真)。キッチンにいたファティマの母が、いつも通り、ファティマに命じる。「アリを起こして。一日中寝てるつもりかしら」。娘には厳しい母も、アクセルは凄く優しい。「ママに 電話しといたわ、アクセル。ウチにいるってね」と笑顔で言う(3枚目の写真)。祈りの終わった父は、「ママは、姉さん〔ミア〕にカンカンだったぞ」と アクセルに教える。そこにファティマが姿を見せると、母は、にこりともせず、「お早う、ファティマ」と言う。場面は変わり、ファティマは 「お早う、アクセル」と言い、アクセルは 「うん。歌詞できた?」と訊く。ファティマは首を横に振る。「僕は、ダメ」。母:「何の話、してるの?」。ファティマ:「大したことじゃ…」。アクセル:「ママ、何て?」。ファティマ:「コーヒー、好きかって」。それを聞いた母は、優しい笑顔で、「好き?」と アクセルに訊く。「とっても」。
  
  
  

すると、ファティマの弟が、2人の話の内容は “歌” だったとバラしてしまう。母は、ファティマでなく、アクセルに、「歌って、何のこと?」と訊く。アクセルは正直に、「クラブの歌唱大会」と答える。しかし、それは、ファティマにとって最も知られたくないことだった。母は、「歌唱大会? クラブ活動で?」とファティマに訊く。「みんなで、歌うの」。「歌うって? みんなの前で?」。「パパが、許可してくれた」。父:「俺が、何を 許可したって?」。ファティマ:「歌唱大会のこと」。「ああ、出て構わんぞ」。母:「正気?」。「構わんじゃないか?」。「人前で歌うのよ! 歌謡ショーみたいなとこで!」。すべてはアラビア語なので、アクセルには、何が口論になっているのかさっぱり分からない。そこで、「何を、もめてるの?」と、ファティマに訊く。「私が、歌唱大会に 出ていいかどうか」。「絶対、許しませんからね」。「分かった、分かった」。「だいたい、あんたが 甘いのよ」。ファティマは、「パパは、いいって言った」と抵抗する(1枚目の写真)。「ファティマ!」。ファティマ:「横暴よ!」。「生意気な口きいて! 部屋にお行き!」。父:「過剰反応だぞ!」。「子供のことは、全部 私に相談してちょうだい!」。その後、ファティマは、アパートの近くで、アニカに、母への不満を口にする。「何て言った と思う? 歌唱大会への出場は禁止。クラブに参加できるだけでも感謝しなさいって」(2枚目の写真)。そこに、加わったアクセルに、「ママは、自転車にだって乗らない」と話す。そのすぐあとに、以前、管理人に放り出された野良犬が3人の前に現れる。アクセルは 「噛みつかないよ」と2人に言うが、アニカは 「犬に、触っちゃいけないの」と話す。ファティマも 「私もよ」と言う。アクセル:「どうして?」(3枚目の写真)。アニカ:「ママが、アレルギーだから」。ファティマ:「ムスリムだから」。それを聞いたアクセルは、犬を撫でていた手を放し、立ち去ろうとする。ファティマ:「どこ 行くの?」。アクセル:「犬には触らない。敬虔なムスリムだから」。アニカ:「ムスリムは、救いの手を差し出すの」。その言葉で、3人は犬には触らないが、食べ物をやろうとして、最初は、ファティマの店の裏に置いてある肉を食べさせようとするが、父親に見つかり追い払われる。
  
  
  

ファティマは 「歌で、お金稼いで、餌を買いましょ」と言い出す(1枚目の写真)。アクセルが 「歌詞ができる前に、こいつ、飢え死にしちゃうぞ」と言うと、「見本があるから、手直しするだけ」と言って、アリのパソコンから盗んだ詩を渡す。少し読んだアクセルは、「こんなの歌えない。女の子が書いた詩だろ」と反対するが、ファティマは 「兄さんが書いたのよ、アクセル」と言い、詩の最後の部分、“アリから ミアへ” を見せ、「コンピュータに入ってた。あんたの姉さんへの、愛の詩よ」と説明する。アニカは、「どこで 歌うの?」と訊くと、アクセルは、以前、母が働いていた老人ホームを勧める。「金持ちの老人が多い。チップを一杯くれたって」。そこで、ファティマとアニカが、紙を見ながら、老人ホームの食堂で、ぎこちなく歌う。そこにいた老人は7人だけ。アクセルは帽子を持ってチップ集めに回るが(2枚目の写真)、集まったのは僅か2.25クローナ〔35円〕。そこで、2人は、パブに行き、もっと多くの客の前で歌う。老人ホームの時よりは、上手に歌えて、金額は不明だが、ドッグフードを買うだけのお金は集まる。3人でそれを喜んでいると、そこに2人の男性が通りがかり、ファティマは急いで犬から体を離す。男性のうち1人はイマム〔イスラム教の導師〕だった。ファティマは、アニカに、「私は、犬に近付けないの」と説明する。「咎めなかった じゃない」。「イマムが、指をパチンとはじいたら、私は外出できなくなるの。イマムが戻ってきたら、私は 犬とは無関係よ」。それを聞いたアクセルは、「大丈夫さ。僕みたいな、“良きムスリム” がいるだろ」と自慢する。「そんなの、効果ないわよ」。アクセルは、「これがある!」と、ネックレスを見せる(3枚目の写真、矢印)。「豚レバーのペースト好きのデンマーク人に見えるわ。そんなネックレス、みんな持ってるし」〔冒頭に書いた、イスラムの男性は、金のネックレスなどの宝飾品は厳禁という話は、どうなっているのだろう?〕。口の悪いファティマは、さらに、「そんなズボンはいたムスリム、見たことないわ」と批判する。「どこが、変なんだ?」。「趣味が最悪」。アクセルは、アニカに、「これ、趣味が悪いと思う?」と訊く。ファティマほど、口が悪くて 意地悪ではないアニカは、「ちょっぴりね」と優しく言う。
  
  
  

アクセルは、ドックフードを買いに行く。しかし、ショッピングモールを歩いていたアクセルは、カッコいいズボンに目を留める。次のシーンで、アニカが、犬を 「クリストーファって、呼びましょ」と言っていると、そこに、新しいスボンをはいたアクセルが現われ、「どうだ?」と訊く(1枚目の写真、矢印)。ファティマ:「何が?」。「カッコいいだろ? アリみたいだ」。アニカ:「ドックフードは?」。「ドックフード?」。ファティマ:「どうして、買わなかったの?」。「このズボンが目に入って、サイズも、ぴったりだった」。ファティマ:「返品してらっしゃいよ。今すぐ!」。「できないね」。アニカ:「犬は、お腹が空いてるのよ」。「ビスケットで 十分だ」。「そんなの、まともな 食べ物じゃないわ」。「僕に、裸になれってのか?」。ファティマ:「前のズボン、はいてれば?」。「捨てたよ。悪趣味だから」。「ズボンを脱いで、自分で歌うのね」。そう言うと、2人でアクセルのスボンを脱がせ始める。結局、アクセルがモールの中で歌い、2人がチップを集めることで合意(2枚目の写真、矢印はチップを集める帽子)。途中から、ファティマも歌い始める。お金は結構集まるが、ちょうどその時、モールにいたアクセルの姉とアリに、自分たちの詩が勝手に歌われている現場を見られてしまい、止めさせられる。アクセルとアニカは犬を連れて逃げるが、ファティマはアリに捕まり、パソコンから勝手に盗んだ罪でアパートに連れて行かれる。一方、アニカは犬に餌を食べさせている(3枚目の写真)。アクセルはアニカに、ファティマのことを、「叱られても、一瞬さ」と言う。
  
  
  

しかし、一瞬で済むハズはなかった。ファティマは、犬と一緒にいたことを、「何度も、洗ったわ」と弁解するが、父は 「違うだろ。クラブ活動だったハズが、モールで、犬と一緒に歌うなんて! もう、お前を信用できなくなった」と叱る。母の反応はもっと激しい。「何てことをしたのよ! 一家に恥をかかせて!」(1枚目の写真)〔ファティマのアクセルに対する態度が、いつも感じが悪いのは、こうした母の影響か?〕。「犬を 助けたかったの」。父:「保健所に電話すりゃ よかったんだ」。母:「どうなの?」。父:「バカなことを したもんだ!」。ファティマは 「イマムは、咎めなかったわ」と反論する〔両親にこれだけ叱られて、こんな生意気な反論をするだろうか?〕。父は、「イマムだと? 会ったのか?」とアリに尋ねる。「見てないよ」。父:「話を、はぐらかしおって」。母:「隠し事をするなんて」。父:「お前は、外出禁止だ。クラブ活動も禁止。歌唱大会もなし」。一方、アクセルのアパートでは、姉が、「恥しい思い させて!」と アクセルを責める。「僕のせいじゃない」(2枚目の写真)。「アリが書いてくれた詩を、モールで歌うなんて」。「僕じゃない」。「じゃあ、誰なの?」。「僕にそっくりな奴がいて、アニカやファティマも間違えた。変な奴なんだ」。「ネックレス返して」。「歌唱大会で要るんだ」。「返して」。結局、返さざるを得なくなる。その後で、姉はさらに、「あと一度でも歌ったら、あんたのせいで、アリと会えなくなるわ!」と責めたので、それまで黙っていた母が、“アリとの関係が行き過ぎ” と判断し、「十代なんだから、少しは自重なさい」と、逆に姉を責める。それを聞いたアクセルは、“ざまみろ” という顔になる(3枚目の写真)。
  
  
  

アニカのアパートでは、食事中、母の具合が悪くなる。「ムズムズするの。アレルギーだわ」。父:「食べ物じゃないぞ」。母:「きっと、どこかで動物に…」(1枚目の写真)。父は、「動物のそばには寄ってない」と言い、それを受けて、アニカも、「私もよ」と 嘘をつく。母:「それ 確か?」。アニカ:「もちろん!」。ここで、場面は、もう一度。アクセルのアパートに。アクセルは、電話で父と話している。「土曜の歌唱大会には、来てくれる?」。父:「歌唱大会? ああ、行くとも」。「じゃあパパ、またね」。その会話を訊いていた姉は、自分が横になっていたソファにアクセルを呼んで、優しく背中をさする(2枚目の写真)。これは、さっき、厳しく言い過ぎたことへのお詫び。アクセルと姉の関係は、ファティマと兄の関係より、ずっと穏やか。翌朝、アクセルとアニカが ファティマのアパートを訪れると、ドアから出てきた弟が、「会えないよ」と言う。アクセル:「なんで?」。「外出禁止」。すると、ファティマも顔を出し、「私が、悪かった。だから、パパの命令で、今週中は部屋に監禁なの」と言う。それを聞いた2人は驚く(3枚目の写真)。ファティマ:「抜け出すから」。部屋の中から、母が冷たい声で呼ぶ。「ファティマ! 話してないで、手伝いなさい」。「練習してて。私が出れば、歌唱大会は優勝できるから」〔こういう、高慢ちきなところも、ファティマの欠点〕
  
  
  

アクセルは、ファティマの外出禁止を解いてもらおうと、イマムに会いに行く。モスクの一部とは思えないような建物の2階にある貧相なドアには、1枚の紙がピンで止めてあり、そこには、「Kontor مكتب.〔事務所〕とプリンターで出力した文字が印刷されている。アクセルがドアを叩くと、この間、道路でチラと見た男性が顔を出す。「やあ? 何か用?」。「聞きたいことが」。「忙しいから、また 後で」。「ムスリムは、救け合うんでしょ?」。この言葉で、イマムは、アクセルを部屋に招じ入れる。アクセルは、出された洋ナシを齧りながら、ファティマについて話し、「歌唱大会に出るべきなんです」と言う。その頃、ファティマは、母に向かって、「他の2人に、悪いと思わない?」と訊く。「何が?」。「私なしで、歌唱大会に出なくちゃいけない」。「2人のことを、心配してるの?」。「“びり” になっちゃうわ〔傲慢〕。そして、アクセル。イマムに、「僕も、ムスリムです」と言う(1枚目の写真)。「コーランが言えるかね?」。「それ何です?」〔あまりに拙い返事〕。「言えなければ、ムスリムではない」。アパートに戻ったアクセルはパソコンでコーランを調べる。そして、デンマーク語で標記されたコーランを読み上げる。「アラーは唯一の神であり、ムハンマドはその使徒なり」(2枚目の写真)。姉が、「それ何?」と訊く。アクセルは 姉に向かって同じ言葉をくり返す。そして、翌日、イマムの部屋を訪れたアクセルは、暗記した冒頭の1行を暗唱する。それを聞いたイマムは、笑顔になって、アクセルを部屋に入れる。
  
  
  

イマムは、前日と同じ果物をアクセルに食べさせながら、「心底から信じるかね? 学ぶことも多い。お父さんの許可も必要だ」と言う(1枚目の写真)。「問題ありません」。「認めてもらえると?」。「何でも」。「いつ、お会いできる?」。2人は、さっそくアクセルの父の “住まい” に向かう。その “住まい” は、玄関前の空間に物が雑然と放置されたデンマーク版 “ゴミ屋敷”。アクセルは、「ここ、借家なんです」と釈明する(2枚目に写真)。半裸で寝ていた父がようやくドアを開ける。「やあ、アクセル。その人は?」。「イマムだよ」。「そう? どうも、リヒャールです。誰も 訪ねて来ないもので。クラブの方?」。「いいえ、私はイマムです。イスラム教の “牧師” です」。父は、2人を中に入れる。中は、あまり衛生的とは言えない。しかし、アクセルの申し出に対しては、「ムスリムになりたい? いいじゃないか。頑張れよ」と言うが、このあとの、比喩が悪い。「ポケモン・カードを収集するよりずっといい」。それを謝罪した上で、今度はまともな発言をする。「人生、何かすがるものが必要だから」。イマム:「その通りです」(3枚目の写真)。帰りの車の中で、イマムは、「アラーは偉大なり。ムハンマドはアラーの使徒なり」を、上手に言えるようになるまで、何度もアクセルに繰り返させる。「僕、もうムスリム?」。「まだ」。
  
  
  

次にアクセルが訪れたのは、アリ。「お祈りに行かない?」と誘う。アリは、びっくりして、「お祈りだと?」と訊く。「そう。モスクで」。「今か?」。「うん。今」。アリは、アクセルと一緒にモスクに行く。「まず、洗うんだ」。アリは、アクセルを清めの洗い場に連れて行き、「3度洗う。いいな?」と、ずらりと並んだ水道で顔を洗わせる。「ごしごし擦るの?」。「拭うだけだ」。「髪の毛と、耳の後も拭う」(1枚目の写真)。「後は、足だけだ。祈るには、清潔でないとな」。そして、靴置きに靴を入れ、右足からモスクに入るよう指示する。そして、床に一列に座ると、「俺の真似をして」と囁き、イマムの 「アラーは 偉大なり」の言葉のあと、全員が床に跪き、頭を床に付ける(2枚目の写真、矢印は、腕を頭の前に出したアクセル)。帰りの車の中で、アリは、「新しい名前が要るな。知ってるか?」と訊く。「そうなの?」。「ムスリムになるなら、アクセルじゃダメだ。アラブの名前が要る」。「他には?」。「決められた時間に祈ること。豚は食べられない。割礼も必要だ」。この最後の言葉で、アクセルの顔が曇る(3枚目の写真)。
  
  
  

車を降りた後、アクセルはアリに犬のことを訊くと、アリは、「ムスリムも犬に触れる」と言う。「ファティマが、できないって」。「厳格なムスリムが言ってることだ。実は、触れる。撫でてもいいが、舐めさせちゃダメだ。部屋に入れることも」(1枚目の写真)。その日の夕食。アクセルが嬉しそうに食べていると、姉が、「アクセル、ムスリムなんでしょ?」と訊く。「うん」。「ミートボールおいしい? それ、豚肉よ」。アクセルの口が止まる。「まさか」。姉は、アクセルに 「ほんとよ」と答え、母に 「でしょ?」と訊く。「ええ」。それを聞いた時、アクセルの口の中は豚肉で一杯(2枚目の写真)。「ミートボールに、どうして豚肉入れたの?」。「いつも入れてるわ」。「僕、ずっと豚肉食べてたの?」。「ええ」。アクセルは、その場で食べた物を吐き出し、母に、「止めて。汚いじゃない」と言われると、「僕はムスリムだ。豚は不浄だ」と言って立ち上がると、シンクに向かって残りを吐き出す(3枚目の写真)。母が 「アクセル」と制止すると、「僕は、アクセルじゃない。アクメッドだ」と言う。アクセルは洗面に行くと、歯ブラシで舌を擦ってきれいにする。
  
  
  

その日の夜はどしゃ降り。犬は、繋がれた場所でずぶ濡れ(1枚目の写真、矢印)。犬の吠える声を聞いたアニカは、母がアレルギーなので、アクセルの窓に小石を投げ、ドアを開けさせると、「外に放っておけないわ」と、犬をかくまってくれるよう頼むが、アクセルは、「ウチには、入れない」と断る。「死んじゃうわよ」。「もし、雷に打たれたら、アラーの思召しさ」。「意地悪な ムスリム!」。そこで、恐らく、向かい合った窓から頼まれたファティマが、雨合羽を羽織ってこっそりドアの所に行こうとするが(2枚目の写真)、すぐに見つかり、父に 「どこに行く?」と訊かれる。外出禁止なので、「どこにも」と誤魔化す。そこで、結局、アニカが 薄い透明のレインコートを着て、犬を助けに行く。そして、こっそり自分の部屋に連れ込む。しかし、朝になり、母が急に咳き込み、吸入器が必要なほどになる。それを聞いたアニカが、急いで服を着て犬を隠そうとしていると、その姿を父に見つかってしまう(3枚目の写真、矢印は犬)。犬は逃げ回って毛をあちこちの部屋中にバラまき、大騒動に。
  
  
  

翌日、アニカは、地下室に犬を隠したとアクセルに打ち明け、一度だけ預かってくれるように頼む。アクセルは、「ウチのアパート、犬は禁止なんだ」と断る〔アニカも同じアパートなので、昨夜は、違反行為をしたことになる〕。すると、アパートの管理人が、犬を地下室から捕まえてきて、放す。そして、地下室の前に “犬を待っているように” 立っていた2人を疑う。そのあとで、ブッシュで犬の糞をまた踏んでしまったので、「捕まえたら、覚悟しろ」と最後通牒。そのあとのシーンが理解できない。先ほど、「犬は禁止」と言ったばかりなのに、アクセルの部屋に犬がいて、アニカも一緒にいる〔管理人をあざけるつもり?〕。アクセルはアニカに時間を訊き、「12時5分」と言われると〔ムスリムの1日5回の祈りの2回目は昼の12時頃〕、大急ぎでコップに水を汲んでくると、指をコップに突っ込んで、その水で顔を拭う(1枚目の写真、矢印は小さなコップの僅かな水)。顔のあとは髪、耳の裏、そして脚と足。それを見て、アニカが思わず、“変なことしてる” とニヤニヤ(2枚目の写真)。準備が終わると、床の絨毯に跪き、メッカの方向が正しいかどうかは不明だが、モスクの時のように礼拝を始める(3枚目の写真)。アニカは思わず笑ってしまう。夜になり、アクセルのアパートには、姉と母が帰ってきている。母は、異様な臭いに気付き、「トイレに何か流した?」と姉に訊く。「ううん」。「嫌な臭い。ウンチ、漏らした?」。アクセルは、「おなら だよ」と言うが、犬のクンクン鳴く声がアクセルの部屋から聞こえる。ドアを開けると、中に例の犬がいる。「犬なんか!」。「ムスリムは、犬が持てる」。姉は、「可愛いわ!」と肯定的。母は、「きれいに 洗いなさい」と言い、部屋の中にいることを許容する。犬は、姉とアクセルに挟まれて幸せそうだ(4枚目の写真)。
  
  
  
  

そして、いよいよ、クラブの歌唱大会の当日。舞台の上。アクセルが、ムスリムになった当初の目的は、イマムに、ファティマの両親を説得してもらい、彼女の出場を可能にするためだったが、イマムは 「彼女のご両親の問題だ」と言い、説得を拒む。だから、舞台の上で待っていても、ファティマは現れない。アクセルは、アニカに 「良きムスリムは、救いの手を差し出す」と言い(1枚目の写真)、自分で何とかしようと、会場を抜け出し、自転車でファティマのアパートに向かう(2枚目の写真)。そして、ファティマのアパートに行くと、ドアを開けたアリに、「祈り方、教えてよ」と頼む。アクセル:「上手くできないんだ。5分だけ」。ところが、アリが教えようとして 「さあ始めるぞ」と言うと、「一人で やっていい?」と訊く。「教えてくれって言ったろ?」。「アラーと、一人になりたいんだ」。「そうか。メッカはあっちだ。靴を脱ぐんだぞ」。アリが、“変な奴だ” と首をかしげながら部屋を出て行くと、アクセルは 這って部屋を出ようとし、ファティマの母と弟に見つかってしまい、笑顔で誤魔化す(3枚目の写真)。その次は、うまくアリの部屋を抜け出し、居間の端を這って進み、廊下に出て、ファティマの部屋に行く。ファティマのドアをノックすると、ファティマはドアを開け、アクセルを見ると(4枚目の写真)、すぐドアを閉める〔嫌な性格〕。「助けに来たんだ」。
  
  
  
  

このアクセルの言葉にどう反応したのかは、映画では描写されない。次のシーンは、いきなり、アクセルの服を着たファティマが、うつむいて居間に入って来る場面(1枚目の写真)。居間では、アリの母親をパソコンの前に座ってゲームをしていて、それをアリがサポートし、横で弟がそれを見ている。だから、誰も、“アクセル” には関心がない。アリは 「バイバイ、アクセル」とだけ言い、母親は「どうして、寝室から 出て来たのかしら?」と疑ってアリに話しかけるが、元々アクセルの言動が変だったので、アリは、「言ったろ。変だって」と言っただけ。だから、“アクセル” が何も答えずに出て行くのを見過す。一方、本物のアクセルは、ファティマの歌唱大会用の服を着て、ファティマのベッドの上で、彼女のノートを小さな声で読み上げる。「ママとパパって、世界一 憎たらしいわ」(2枚目の写真)。その時、弟が部屋に入ってくる気配がしたので、同室の弟のベッドに潜り込んで布団をかぶる。弟は、しばらく絨毯の上で遊んでいたが、“姉” に 「自分の寝台に入れよ」と言いつつ布団をめくったので、そこにいたのがアクセルだと バレてしまう。一方、歌唱大会の会場には、アクセルの父が約束を守って現れる。そして、何とか間に合ってファティマが現われ、アニカと一緒に歌い始める。それを見た父は、がっかりして帰ってしまう。ファティマの部屋では、アクセルが弟に本を読んでやっている。そして、黙っていれば、20クローナ〔300円〕やると言い、おとなしくさせる。しばらくして、アクセルは、廊下に逃げ込んだ時のように、這って廊下から居間に入ろうとして、ファティマの父に見つかってしまう。「そこで、何してる? ファティマは どこだ?」。アクセルは、ファティマの真似をして、「やあ、パパ。この髪型、好き?」と笑いを取ろうとするが、父親には通じない。結局、車に乗せられて、父親とアリと一緒に歌唱大会の会場に連れて行かれる。
  
  
  

歌唱大会で 歌い始めたアニカとファティマは、2人で一緒に歌う練習をしてこなかったのに、息がぴったり合い、聴衆も歌に魅惑されて拍手喝采を浴びる(1枚目の写真)。司会の教師が、審査結果を発表する直前に、アクセルがファティマの父親とアリに挟まれて会場に入ってくる(2枚目の写真)。司会は、アクセルを見ると、「アニカ、ファティマ、アクセル、壇上へどうぞ」と言い、「君たちが2位だ。おめでとう!」と審査結果を発表し、ファティマの父を含めて拍手が起きる(3枚目の写真)〔アクセルは、ファティマの服を着ている。分りにくいが女性服だ〕
  
  
  

服を着替えて外に出てきた3人。アクセル:「やったな!」。アニカ:「まあね」。ファティマ:「勝てたのに」。アクセル:「僕が いなかったからさ」(1枚目の写真)。アニカ:「クリストーファ〔犬〕がいたら、勝ってたわ」〔意味不明〕。後ろにいたアニカの父は、アクセルの母に向かって 「アクセルは、気の毒だった」と言い、母は 「他にすることが、あったのよね」と言うが、真ん中に挟まれたファティマの父は、すべてが彼の狭量な決定が原因なので、少しくらい恥じているのだろうか?〔ムスリム移民の独自の価値観が、デンマーク人の価値観と違っていることによって生じた障害〕。一方、アクセルの姉は、「これ、頑張った ご褒美よ」と言い、ネックレスを外すと、「アクメッド」と言って、アクセルに渡す(2枚目の写真)。ムスリムになることの無意味さを悟ったアクセルは、「アクセルで いいよ」と言う。母は、アクセルに、父が会場に来たことを話す。映画の最後のシーンは、アクセルと父が犬を連れて散歩するシーン。父が、「来いよ、アクメッド! アクメッド!」と呼ぶと、ここでも、「アクセルで いいよ」と言う(3枚目の写真)。しかし、父は、やめようとしない。「女装したアクメッドは、楽しかったか?」。「恥ずかしかった」。「こいつと、散歩してみないか?」。「やめとく」。「何て、名前にしよう?」〔父が飼うことになった?〕。「さあね」。「そうか? 『さあね』〔犬の新しい名前〕。おいで、『さあね』」。これには、アクセルも負けて、一緒に笑いながら走って行く。
  
  
  

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